月次締めの早期化|1日縮めるために動かすのは、経理の外です
「月次が出てくるのが翌月20日過ぎなので、もっと早くしたい」。この相談を受けたとき、私がまず聞くのは経理の話ではありません。営業と現場が、いつ何を出しているかです。理由は単純で、締めが遅い会社の時間は、ほぼ例外なく経理の外で消えているからです。
先に結論を書きます。月次締めの早期化とは、経理が速く処理することではなく、締めに必要な材料が揃う日を前に動かすことです。経理の中を効率化して縮むのは、だいたい1〜2日。それ以上を取りに行くなら、社内の締切と、揃わなかったときの扱いを決め直すしかありません。
この記事は締め日を縮める手順に絞っています。月次決算そのものの進め方(何を、どの順で処理するか)は月次決算のやり方に、日次・月次の業務の並べ方は経理業務のフローにまとめました。
まず、締めのタイムラインを1か月だけ実測する
早期化の相談で最初にやるのは、施策の検討ではありません。先月の締めが、どの日に何をしていたかを1行ずつ書き出すことです。これをやらずに手を打つと、たいてい効かない場所を効率化します。
書き方は難しくありません。営業日ごとに「その日に何を待っていたか」「何を処理したか」を1行。処理していない日、つまり待っていただけの日にも必ず行を作ってください。実測すると、待ちの行が想像よりずっと多いことに気づきます。
| 日 | よくある実態 | これは待ちか、処理か |
|---|---|---|
| 1〜3営業日 | 銀行・カードの明細を取り込み、記帳を進める。ここは経理の手が動いている | 処理 |
| 4〜7営業日 | 経費精算の申請が出そろわない。領収書の催促。請求書が現場の机に置かれたままになっている | 待ち |
| 8〜10営業日 | 売上の数量・稼働が営業から確定してこない。請求金額が固まらない | 待ち |
| 11〜15営業日 | 入金と請求の突合、残高の不一致を追う。ここは経理の手が動いている | 処理 |
| 16〜20営業日 | 試算表を作り、社長に説明する。修正が入って作り直す | 処理+やり直し |
この形で並べると、削れる場所がはっきりします。4〜10営業日目が丸ごと待ちになっている会社が非常に多いのです。ここが空白のまま、経理の記帳スピードを上げても、締め日は1日も動きません。逆に言えば、待ちの5営業日を2営業日にできれば、それだけで3日縮みます。
縮められる場所は、3つしかない
実測したタイムラインは、必ず次の3つのどれかに分類できます。打ち手が違うので、混ぜないでください。
| 分類 | 正体 | 打ち手 | 縮む幅の目安 |
|---|---|---|---|
| ①経理の外の待ち | 経費精算、請求書、売上の数量確定が出てこない | 提出期限と、遅れた場合の扱いを決める(後述) | 大きい。3〜5営業日縮むことがある |
| ②経理の中の処理 | 記帳、突合、資料作成に実際に手が動いている時間 | 連携の自動化、担当の分担、前倒し着手 | 1〜2営業日程度 |
| ③やり直し | 出したあとに数字が変わり、作り直している | 確定と概算の線引きを先に決める | 会社による。多い会社では2営業日超 |
手をつける順番は①→③→②です。②から始めたくなる気持ちは分かります。経理の中は自分たちで変えられるからです。ただ、②だけを頑張っても上限が1〜2日で頭打ちになります。私が現場に入るときも、最初の1か月は①の交渉に使います。
①経理の外の待ちを縮める
締切を決めるだけでは動かない。「遅れたときの扱い」まで決める
「経費精算は翌月3営業日まで」という社内ルールを持っている会社は多いです。それでも守られません。理由は、遅れたときに何も起きないからです。締切だけを決めて運用が変わった例を、私はあまり見たことがありません。
決めるべきは、締切とセットの次の一文です。「期限までに出なかったものは、翌月の経費として処理する」。これを社内に周知すると、動き方が変わります。自分の部門の当月コストに載らない、つまり部門の数字が実態とずれることになるので、現場が出してくるようになります。
ここで大事なのは、経理が催促する構造をやめることです。催促は、経理の時間を使いながら、相手の優先順位も上げません。ルールの側に結果を持たせて、経理は追いかけない。この切り替えが早期化の本体です。人手が足りない状態での運用は経理の人手不足にも整理しました。
売上の確定は、経理の締めより前に置く
受託や役務提供の会社でいちばん詰まるのがここです。稼働時間や納品数量が営業側で確定しないと、請求金額が決まらず、売上が計上できません。そして営業は月末の商談で忙しい。
現実的な打ち手は、確定日を月末ではなく、月末の3営業日前に置くことです。残りの3日分は見込みで入れておき、月初に差分だけ直します。全部が確定するのを待つより、95%を早く出して、5%を後で直すほうが速い。この考え方は次の③にもつながります。
請求書の受け取り口を、経理に一本化する
現場の担当者宛に届いた請求書が、月初まで机の上にある。これも典型です。受け取り口を経理のメールアドレスや共有フォルダに一本化するだけで、数日縮むことがあります。難しい施策ではないのに、効きます。
③やり直しを減らす:確定と概算の線引き
締めが遅い会社には、もうひとつ共通点があります。全部の数字が確定するまで、試算表を出さないという運用です。真面目な会社ほどこうなっています。ただ、経営判断に使う数字としては、精度が上がるのを待って20日にもらうより、多少ぶれても8日にもらったほうが役に立ちます。
そこで、費用を性質で分けます。
- 金額が確定しないと入れられないもの:仕入、外注費など、金額が業績に直結するもの。これは確定を待ちます
- おおむね毎月同額のもの:家賃、通信費、リース料、サブスクリプション。前月と同額で先に入れ、請求書が来たら差額を調整します
- 金額は変動するが、業績判断を左右しないもの:少額の消耗品、雑費。前月実績や見込みで入れて、翌月に精算します
この線引きを先に決めておくと、「請求書が1枚来ていないから試算表が出せない」という状態が消えます。概算で入れた行がどれかを一覧にしておくことだけ、忘れないでください。翌月に必ず見直す前提の数字なので、後から誰が見ても分かる形にしておく必要があります。
なお、月次を概算込みで早く出す運用と、年度の決算を締める作業は別物です。決算では確定した数字に置き換えます。決算側の話は決算代行とはに分けて書きました。
②経理の中を縮める:前倒しでできることを月中に寄せる
ここは最後ですが、やる価値はあります。ポイントは効率化より前倒しです。月初に集中している作業のうち、月中にできるものを移します。
- 記帳は日次で回す:月初にまとめて打つのをやめ、週1回でも取り込みと仕訳を進めます。月初の作業量が明確に減ります
- 固定的な仕訳は先に登録する:家賃、リース、減価償却など、月中に確定しているものは月末を待たずに入れておきます
- 残高の確認を月中に1回入れる:月末に一気に不一致を追うと時間が読めません。月中に一度合わせておくと、月初に追う範囲が半月分に減ります
効率化の道具立てそのものは経理の効率化ツールに整理しています。ただ、ツールを入れても①の待ちは減らない、という点だけは繰り返しておきます。
やってはいけない早期化
締め日を縮めること自体が目的になると、危ない方向に進みます。私が止めているのは次の3つです。
| やり方 | 何が起きるか |
|---|---|
| 確認の工程を飛ばして出す | 残高の不一致が翌月に持ち越され、雪だるま式に増えます。3か月後に、まとめて追う羽目になります |
| 担当者の残業で縮める | 数字は早く出ますが、続きません。担当が抜けた瞬間に元に戻ります。属人化を強める方向です |
| 概算で入れた行を、翌月に見直さない | 実態とずれた数字が積み上がります。年度末に大きな修正が必要になり、決算が重くなります |
早期化は、同じ精度を、より早い日に出せる状態を作ることです。精度を落として日付だけ前に出すのは、早期化ではなく先送りです。
どこまで縮めるべきか
「何営業日が正解ですか」と聞かれます。会社の規模と、数字を何に使うかで変わるので、一律の正解はありません。目安として私が話しているのは次の3段階です。
| 締め日 | 状態 | 次に取りに行くもの |
|---|---|---|
| 翌月15〜20営業日 | 待ちが放置されている。数字は「報告のための記録」になっている | まず①。経費と請求書の提出ルールを決める |
| 翌月8〜10営業日 | ルールは動いている。中小企業ではここで十分機能します | ③の線引きで、月中の意思決定に間に合わせる |
| 翌月5営業日以内 | 概算計上と前倒しが仕組みになっている状態 | ここから先はコストが急に上がります。必要性を先に確認してください |
正直に書くと、多くの中小企業は8〜10営業日で困りません。5営業日以内を目指すのは、月次で予算と比べて手を打つ運用が回っている会社です。予実の見方は予実管理に書きました。数字を早く出しても使う場面がないなら、そのコストは別のところに使ったほうがいいと思っています。
シメゴの考え方
私たちが経理代行としてお預かりする場合も、最初にやるのは記帳の巻き取りではなく、いまのタイムラインの実測です。外注した瞬間に締めが早くなる、ということはありません。待ちの構造がそのままなら、待つ人が変わるだけです。
そのうえで、私たちが実際に引き受けているのは2つです。ひとつは記帳と突合を日次で回して、月初の山を作らないこと。もうひとつは、提出期限の運用を社外の立場から回すことです。社内の経理担当が営業部長に催促するのは、正直やりにくい。外部が「期限を過ぎたので翌月計上にします」と機械的に処理するほうが、角が立たずに回ることがあります。
逆に、社内で締切のルールを決めて守らせられる会社なら、外注せずとも数日は縮みます。経理の内製化で足りる会社に、私たちが入る必要はないと考えています。
まとめ
月次締めの早期化で最初にやることは、施策の検討ではなく先月のタイムラインを1行ずつ実測することです。待ちの日にも行を作ると、時間が経理の外で消えていることが見えます。
縮める順番は、①経理の外の待ち → ③やり直し → ②経理の中の処理。①では締切だけでなく遅れたときの扱いまで決めます。③では確定を待つ費用と概算で入れる費用を線引きします。②は前倒しが中心です。
そして、精度を落として日付だけ前に出すのは早期化ではありません。同じ精度を早い日に出せる状態を作ってください。
タイムラインの実測から一緒にやります。無料コスト診断で今の締めの流れを伺い、待ちと処理を分けた1枚をお作りします。どこを何日縮められるか、先に見てから判断してください。
※本記事は一般的な実務の整理であり、特定の体制・運用における締め日の短縮幅や、会計処理の適正性を保証するものではありません。概算計上の可否や期間帰属の判断を含め、決算・申告に関する最終的な判断は顧問税理士にご相談ください。