経理の内製化|全部戻すより、行単位で分けたほうが早い
「経理を外に出しているが、そろそろ自社に戻したい」。経理代行をやっている私たちのところにも、この相談は定期的に来ます。逆方向の話なので止めると思われがちですが、止めません。戻したほうがいい会社は実際にあります。
ただし、内製化の相談で最初にお聞きしているのは「いつ戻すか」ではなく「なぜ戻すのか」です。ここを飛ばして「全部戻す」から入った会社は、半年後に元へ戻すか、社内が前より重くなっているかのどちらかになりがちです。理由によっては、内製化以外の打ち手のほうが早く効きます。
この記事はすでに外に出している経理を社内へ戻すかどうかを判断するために書いています。まだ外に出しておらず、採用と外注のどちらから始めるか迷っている段階の方は経理は採用すべきか、代行に出すべきかのほうが近い内容です。
内製化の話が出るのは、だいたいこの3つのとき
相談の入り口を分けると、ほぼ次の3つに収まります。そして、この3つは打ち手がまったく違います。
- 費用が見合わなくなった:取引件数が増え、従量部分が膨らんだ。契約当初の想定と処理量が変わっている
- 聞きたいことが、聞きたいときに聞けない:数字は上がってくるが、背景を尋ねると返事が翌日になる。経営会議の前日に間に合わない
- 事業が変わって、外に出したときの設計が合わなくなった:商流が増えた、在庫を持ち始めた、部門別の管理が必要になった
1番は、契約の作り直しで解けることが多いです。処理量が変わったなら単価と範囲を組み直せば済み、担当者を採用するより速く決着します。2番は頻度と窓口の設計の問題で、内製化しても、社内の担当者が1人なら休んだ日に同じことが起きます。
本当に設計の作り直しが要るのは3番です。数字の作り方そのものが変わったので、誰がやるかの前に、何をどう作るかを決め直す必要があります。この場合だけは、内製・外注の議論より先に業務の並べ替えから入ってください。順番の整理は経理業務フローの作り方にまとめています。
内製化でコストは下がるのか
いちばん多い動機が費用なので、正直なところを書きます。経理代行の月額と、担当者1名の給与を並べて比べると、たいてい内製のほうが高く出ます。
| 項目 | 外に出す場合 | 社内に戻す場合 |
|---|---|---|
| 直接かかる費用 | 月額の委託料。処理量に応じて変動 | 給与。月給30万円なら、賞与を年2か月見て年約420万円 |
| 上乗せされるもの | スポット対応の追加費用 | 社会保険の会社負担(給与のおよそ15%前後)、通勤費、労働保険 |
| 立ち上げにかかるもの | 初期設定・引き継ぎの費用 | 採用費(紹介経由なら理論年収の3割前後が目安)、教育に使う既存社員の時間 |
| 継続してかかるもの | — | 会計ソフト、PC、席、有給・産休育休や退職時の代替 |
| 止まるリスク | 担当が替わっても契約は続く | 1名体制なら、その人が休むと止まる |
金額の目安は会社の処理量で変わるので、ここでは断定しません。ただ比べる土俵がずれていることは、はっきり申し上げられます。委託料は「経理という作業に対する費用」ですが、給与は「その人が引き受ける仕事の全部に対する費用」です。
だから、内製が有利になる会社には共通点があります。採用する1名が、経理以外の仕事も引き受けられる場合です。総務、労務の窓口、受発注、備品や契約書の管理。この兼務が成り立つなら、経理単体の費用比較では見えない分の元が取れます。逆に、経理だけをやる人を1名採るなら、費用は下がるとは限りません。
内製に向く行、外に置いたままでいい行
私たちが内製化の相談で必ず作るのが、この表です。経理を一かたまりで扱うと判断が粗くなるので、行単位に割ってから決めます。
| 業務の行 | 置き場所 | 理由 |
|---|---|---|
| 記帳・仕訳入力 | 外のままでよい | 判断が少なく、量に比例する。人の在籍に左右されないほうが安定する |
| 請求書の発行、入金消込 | 外のままでよい | 作業は定型。ただし与信と取引条件の変更は社内の判断 |
| 支払データの作成 | 作るのは外、実行の承認は社内 | 作成と実行を分けたほうが、社内の統制としても健全 |
| 経費精算の1次チェック | 外のままでよい | 規程を渡せば判断が定型化する。差し戻しの言いにくさも外に出せる |
| 締めの段取りと進捗管理 | 社内に戻す | 資料が出てこない相手を動かす仕事。社内の人間関係が要る |
| 予算と実績の差の説明 | 社内に戻す | 数字を作るのは外でよいが、なぜそうなったかは現場の言葉でしか語れない |
| 資金繰りの判断 | 社内に戻す | 作業ではなく経営判断。表を作るところまでは外に出せる |
| 決算申告・税務相談 | 顧問税理士 | 税理士の独占業務。内製・外注の議論の外にある |
この表を作ると、多くの会社で「戻したいのは作業ではなく、判断と説明だった」ことが見えてきます。社長が不満だったのは記帳が外にあることではなく、月次の数字について社内に説明できる人がいないことだった、という結論になる場合が少なくありません。
どこまでを外に置けるのかの一般的な線引きは経理の丸投げはどこまでできるかに整理しています。
内製化が失敗する3パターン
1|採用が決まった月に、まとめて解約する
いちばん多い失敗です。入社日に合わせて委託契約を切ると、新しい担当者は前月の締めを一度も見ないまま、いきなり自分の月次を迎えます。前任にあたる存在が社内にいないので、詰まったときに聞く先もありません。
重ねる期間を1〜2か月取ってください。委託料が二重になりますが、月次が1回崩れたときに社内で吸収する労力のほうが、たいてい高くつきます。
2|運用ルールを返してもらわないまま切る
外に出している間、判断の基準は委託先の中に溜まっています。この取引先だけ計上のタイミングが違う、この費用はこの部門に付ける、この摘要はこう書く。契約書の業務範囲には書かれていない、日々の申し送りです。
解約を伝える前に、何が、どの形式で、いつまでに返ってくるのかを確認してください。会計データだけが返ってきても、判断の理由は付いてきません。同じことは人が辞めるときにも起きます。渡すべき中身は経理の引き継ぎにまとめました。
3|「採用できたら戻す」と決めて、宙に浮く
方針だけ決まって、採用が進まないまま半年が過ぎる。この間、社内では「どうせ戻すから」と改善が止まります。委託先への申し送りも更新されなくなり、いざ採用できたときには引き継げる状態ではなくなっています。
採用を条件にするなら、期限を切ってください。この日までに決まらなければ現行体制を前提に組み直す、と決めておくだけで、宙に浮いている期間の損失は止まります。
戻すなら、順番は「判断から」
実際に内製化を進めるとき、多くの会社は入力のような定型作業から社内に戻そうとします。分かりやすいからです。私の考えでは逆です。
理由は2つあります。ひとつは、定型作業は誰がやっても結果が同じだからです。社内でやる価値がいちばん薄い行を、いちばん先に戻すことになります。もうひとつが重要で、入力を先に戻すと、新しい担当者の時間が入力で埋まります。入社直後の数か月は、社内の事情を覚えるための貴重な時間です。そこを作業で埋めると、判断を学ぶ機会が後回しになり、半年経っても「入力はできるが、締めの段取りは回せない」状態になります。
順番はこうです。
- 締めの段取りと進捗管理を社内へ(社内の誰が何を出すかを追える状態にする)
- 月次の数字を経営に説明する役割を社内へ(作るのはまだ外でよい)
- 判断が要る仕訳と、例外処理の意思決定を社内へ
- 定型の入力業務は、ここまで来てから必要なら戻す(戻さない選択も残る)
4番まで行かずに止まる会社が、実はいちばん安定します。
解約や縮小を決める前に、やる棚卸し3つ
- いま外に出している行を、契約書ではなく実態で書き出す:契約書の業務範囲は粗く書かれています。実際にやってもらっていることを、行単位で並べてください。契約に書かれていない小さな作業がいくつか出てきます
- 社内に残っている経理の作業時間を測る:外に出しているはずなのに、資料の準備や差し戻しの対応で社内が触っている時間があります。ここが多い会社は、内製化しても総量は減りません。経理業務の効率化で先に減らせる分があります
- 返ってくるものを確認する:会計データの形式、マスタ、取引先ごとの申し送り、これまでの運用ルール。いつまでに、どの形で返るのか。ここは契約時に決めておくのが本来です
シメゴの考え方:半分だけ内製が、いちばん壊れにくい
私たちがお勧めしているのは、全部を外に置くことでも、全部を社内に戻すことでもありません。判断と説明は社内、手が動く作業は外という分け方です。理由は単純で、この形がいちばん人に依存しないからです。
社内に1名で全部を抱える形は、その人が休んだ日に止まります。逆に全部を外に置く形は、経営が数字を自分の言葉で説明できなくなります。間を取るのではなく、性質で分ける。判断は社内に置き、作業は外に出す。この線で切ると、担当者が替わっても数字は止まりません。
正直に申し上げると、この分け方をすると私たちが受け持つ範囲は狭くなり、委託料も下がります。それでもお勧めしているのは、全部を丸ごと預かった会社ほど、数年後に「中身が分からなくなった」と言われるのを見てきたからです。判断を社内に残しておいた会社とは、長く続いています。
費用の目安を先に知りたい方は経理代行の料金相場をご覧ください。行単位でどこまで切り出せるかは、いまの体制を伺えばその場で整理できます。
まとめ
経理の内製化は、費用の問題に見えて、実際には判断をどこに置くかの問題です。委託料と給与を並べると内製が高く見えますが、比べる土俵が違います。判断を分ける前に金額だけで決めると、戻したあとに同じ相談がもう一度起きます。
進めるなら、判断と説明から社内へ戻し、定型の作業は最後まで外に置く。解約は採用の1〜2か月あとにずらし、運用ルールを文書で受け取ってから切る。この2つを守るだけで、内製化の失敗はかなり減ります。
いま外に出している範囲を見直したい、社内に戻す行と外に置く行を切り分けたい。どちらの方向でも構いません。無料コスト診断からお声がけください。現在の体制と費用を伺ったうえで、行単位の切り分け表をお作りします。
※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の税務判断や、特定の体制・契約内容の適合性を保証するものではありません。記載した金額は目安であり、処理量・地域・契約条件によって変わります。決算・申告に関する最終的な判断は顧問税理士に、採用・雇用契約や社会保険に関することは社会保険労務士等の専門家にご相談ください。