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経理の引き継ぎ|渡っていないのは手順ではなく「判断の理由」

キーワード: 経理 引き継ぎ | シメゴ(運営: Never Red株式会社)

経理担当者から退職の申し出があったとき、多くの会社がまず考えるのは「引き継ぎ期間をどれだけ取れるか」です。1か月あれば足りるか、2か月ほしい、という話になります。

ところが、期間をたっぷり取った引き継ぎでも、担当が替わった翌月に同じことが起きます。月次が2週間遅れ、前任者に電話がかかる。1か月では足りなかったのだ、という結論になりがちですが、私が見てきた範囲では、原因は期間ではありません。渡す順番と、渡す中身がずれていることがほとんどです。

引き継ぎ資料として出てくるものは、たいてい会計ソフトの操作手順です。丁寧に書かれています。しかし後任が詰まるのは操作ではありません。「この請求書は今月に入れるのか、来月なのか」「この費用はどの部門に付けるのか」「この取引先だけなぜ処理が違うのか」。つまり判断です。判断の理由は前任者の頭の中にあって、手順書には書かれていません。

まだ退職の話が出ていない段階で、属人化そのものを解いておきたい方は経理マニュアルの作り方を先にご覧ください。この記事は期限が切られてしまった状態から、何をどの順で渡すかに絞って書きます。

引き継ぎが失敗する理由は、期間ではなく順番

限られた時間の中で、前任者はたいてい「自分がやっている作業を上から順に説明する」という進め方をします。日次の記帳から始めて、月次、そして年次へ。素直な順番ですが、これがうまくいきません。

理由は2つあります。ひとつは、日次の作業ほど手順が単純で、実は説明がいらないこと。もうひとつは、年次の仕事は引き継ぎ期間中に一度も発生しないことです。決算整理も年末調整も、その月に来なければ口頭説明で終わります。口頭で聞いただけの仕事は、半年後には残っていません。

順番を変えます。頻度が低く、間違えたときの影響が大きいものから渡す。これが原則です。日次の記帳は最後で構いません。後任は毎日やるので、そのうち身につきます。

渡す優先度対象理由
最優先年1回・年数回しか起きない処理(決算整理、年末調整、償却、引当、消費税の区分)引き継ぎ期間中に実物が来ない。文書で残さないと消える
社外とのやり取り(顧問税理士・銀行・主要取引先の窓口と期限)相手がいるため、遅れが社外に直接出る
月次の締めの段取りと、判断が要る仕訳期間中に1〜2回は実物が来る。並走できる
日次の記帳・入力操作毎日やるうちに身につく。手順書があれば足りる

渡っていないのは、この4つ

操作手順以外に何を渡すのか。実務で抜けやすいのは次の4つです。

1|判断の基準と、その理由

「この費用は仮払で処理する」だけでは足りません。なぜそうしているのか、いつからそうなのか、変えてよいのかまで書きます。理由が書かれていないルールは、後任が状況の変わった場面に出くわしたとき、応用できないからです。そして、応用できないルールは守られなくなります。

2|締めのカレンダー

いつ何が来て、いつまでに何を出すか。月末から何営業日目で試算表を確定させるのか。この1枚がないと、後任は「今どこが遅れているのか」を判断できません。日付の入っていない引き継ぎ書は、地図のない道案内です。

3|社外との関係と、暗黙の期限

顧問税理士に資料を渡す日、銀行の担当者名、取引先ごとの支払サイトと請求書の送付方法。ここには文書化されていない約束が混ざっています。「この取引先は月末締めだが、実際には25日に送っている」といった運用です。前任者が抜けた瞬間に、こういう約束から崩れます。

4|例外の一覧

本流の処理は手順書に書けます。問題は例外です。特定の取引先だけまとめて計上している、この部門だけ按分の比率が違う、この経費だけ承認ルートが別。例外は1件ずつ、条件・処理・判断した人・いつからかを表にする。この表が、引き継ぎ資料の中でいちばん価値があります。

例外を洗い出す実務的なやり方は、業務の受け渡しを1枚にしてしまうことです。書き方は経理業務フローの作り方に整理しました。

残り時間別、やることの優先順位

引き継ぎのご相談をいただく時点で、残された時間は会社によってまったく違います。時間がないほど、何を捨てるかを先に決める必要があります。

残り期間最優先でやること捨ててよいこと
1〜2か月月次を1回、後任が主で回して前任が横で見る(逆にしない)。年次処理を文書化。例外表を作る操作手順の作り込み。ソフトの画面は後から覚えられる
2〜4週間締めカレンダー1枚+例外表+社外の連絡先と期限。年次処理は「時期・必要資料・依頼先」だけでも残す並走。時間内に一巡しないので、記録に振り切る
すでに退職済み・出社していない直近3か月の実績から逆算して再現する。通帳・会計データ・請求書控え・メールの送信履歴を突き合わせる完全な再現。まず来月の締めを通すことに絞る

2番目の行にある「並走を捨てる」は、抵抗を感じる方が多い判断です。ただ、2週間しかない中で並走に時間を使うと、記録が何も残らないまま前任者がいなくなります。後任が一度も見たことのない処理でも、資料が残っていれば税理士や外部の手を借りて通せます。逆に、見せてもらったが記録がない状態は、誰にも助けられません。

退職の申し出を受けた日に、やる3つ

引き継ぎ資料づくりを指示する前に、その日のうちにやっておくことがあります。あとから取り返しにくい順です。

  1. アクセス権の棚卸し:会計ソフト、ネットバンキング、経費精算、給与、クラウドストレージ、取引先ポータル。誰の名義で、どのメールアドレスに紐づいているかを一覧にします。個人のメールアドレスや個人の携帯番号で登録されているものが、たいてい1つ2つ出てきます
  2. 社外への窓口の確認:税理士・銀行・主要取引先に、担当変更をいつ・誰から伝えるかを決めます。前任者が在職中に一度つないでおくのと、いなくなってから連絡するのとでは、その後のやり取りの速さが変わります
  3. 直近3か月の資料の所在確認:紙の綴じ場所、共有フォルダ、個人のPC内。個人のPCやローカルの表計算ファイルにしかない台帳は、この時点で共有側へ移します

3つとも、資料づくりよりも先です。引き継ぎ書は最悪あとから作れますが、権限とデータは本人がいなくなると触れなくなります。

引き継ぎ書に、書かなくていいもの

限られた時間を使い切らないために、書かないものも決めておきます。

やってはいけない3つ

  1. 前任者を主にして並走する:横で見ているだけでは、判断のタイミングが体感できません。後任が手を動かし、前任が横で見る形にします。間違えたら、その場が最良の教材になります
  2. 引き継ぎ期間の締めを「特別扱い」する:引き継ぎ月だけ前任者が仕上げてしまうと、後任は最後まで締めを経験しないまま独りになります。多少遅れても、後任の手で1回通すほうが安全です
  3. 後任が決まってから資料を作り始める:採用や配置換えに時間がかかると、その間に前任者の意識は次の職場へ向きます。後任が未定でも、記録づくりは申し出を受けた週から始めるのが現実的です

シメゴの考え方:引き継ぎ先は、次の担当者でなくてもいい

私たちにご相談をいただくのは、多くの場合「経理担当が辞めることになったが、後任がすぐに見つからない」という段階です。そこでまずお伝えしているのは、引き継ぎ先を人ではなく、業務の行単位で分けて考えたほうが早いということです。

経理の仕事は、判断が要る行と、要らない行が混ざっています。記帳、請求書の発行、入金消込、支払データの作成といった定型の行は、後任が決まっていなくても外に渡せます。一方で、社内の承認、資金の判断、経営への報告は社内に残ります。この分け方をすると、後任に求める要件が下がり、採用にかかる時間の圧力も下がります。

正直に書くと、退職が決まってからのご相談は、私たちにとってもいちばん難しい入り方です。前任者の判断基準が残っていない状態で引き受けると、最初の1〜2か月は復元作業になります。通帳と会計データと請求書の控えを突き合わせ、「なぜこの処理なのか」を推測しながら組み立て直す。できないわけではありませんが、平常時に始めるより手間も時間もかかります。ここは盛らずに申し上げています。

もし今、担当者がひとりで経理を回しているのなら、退職の話が出る前に、締めのカレンダーと例外表だけでも作っておく価値があります。人手不足そのものへの対処は経理の人手不足に、採用と外注の比較は経理は採用すべきか、代行に出すべきかに整理しました。

まとめ

経理の引き継ぎで渡っていないのは、操作手順ではなく判断の理由・締めのカレンダー・社外との関係・例外の一覧の4つです。この4つが残っていれば、後任が未経験でも回せます。逆に、操作手順だけが分厚く残っている引き継ぎ書は、翌月に前任者へ電話がかかります。

順番は、頻度が低く影響が大きいものから。年次処理と社外の期限を先に、日次の記帳は最後で構いません。退職の申し出を受けた日には、資料づくりより先に、アクセス権の棚卸し・社外窓口の確認・資料の所在確認を済ませてください。権限とデータは、本人がいなくなると触れなくなります。

後任が見つからない、引き継ぎの時間が足りない、何から手をつければいいか分からない。どの段階でも構いません。無料コスト診断からお声がけください。いまの体制を伺ったうえで、外に出せる行と社内に残す行の切り分けをご提案します。

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※本記事は一般的な実務の整理であり、個別の税務判断や、特定の体制・契約内容の適合性を保証するものではありません。決算・申告に関する最終的な判断は顧問税理士に、雇用契約や退職手続きに関することは社会保険労務士等の専門家にご相談ください。