勘定科目の決め方|正解を探すのではなく、迷わない状態を作る
「この支払、勘定科目は何にすればいいですか」。経理をお預かりしていると、この質問を毎月いただきます。そして多くの場合、聞かれているのは科目名ではありません。「自分の判断で決めてしまっていいのか」という不安のほうです。
先に結論を書きます。勘定科目の決め方でやるべきなのは、正解を調べることではありません。同じ性質の支出が、いつ・誰が入力しても同じ科目に入る状態を作ることです。会計ソフトの科目一覧を眺めても、この状態には近づきません。必要なのは、自社の実際の支出に対して判断基準を先に書いておくことです。
この記事は自社の科目をどう決め、どう運用するかに絞っています。決めた科目が月次でどう効いてくるかは試算表の見方に、判断基準の文章化そのものの作法は経理マニュアルの作り方にまとめました。
勘定科目に「唯一の正解」はない
まず前提を共有させてください。勘定科目の名称や区分は、法律で一律に指定されているものではありません。会社法の計算書類や金融商品取引法の財務諸表には表示上のルールがありますが、日々の記帳でどの科目に入れるかについては、実態に合った区分を自社で決めて継続して使うのが基本の考え方です。
だから「消耗品費か事務用品費か」で30分悩むのは、ほとんどの場合、時間の使い方として合っていません。どちらに入れても、継続して同じルールで処理していれば実務上の問題にはなりにくい。問題になるのは、先月は消耗品費、今月は事務用品費、来月はまた消耗品費、という状態のほうです。
この状態が何を壊すかというと、月次の比較です。予実の差を見ようとしたときに、科目がぶれていると「本当に増えたのか、入れる場所が変わっただけなのか」が分からない。数字を見て手を打つための土台が崩れます。この話は予実管理にも書きました。
本当に困っているのは、科目名ではない
実際に会社に入って記帳を引き継ぐと、迷いが集中する場所は毎回ほぼ同じです。私が見てきた範囲では、次の3つです。
| 迷いの形 | 実際に起きていること | 何を決めれば止まるか |
|---|---|---|
| 同じ支出が月ごとに違う科目に入る | 入力する人が複数いて、判断が引き継がれていない | 取引先名や摘要から科目が一意に決まる形にする |
| 「その他」「雑費」に逃げている | 判断がつかない支出の置き場になっている | 雑費の中身を年1回見て、多いものを独立させる |
| 科目が増えすぎて選べない | 過去の担当者が都度追加してきた結果 | 科目は増やさず、補助科目やタグで分ける |
共通しているのは、どれも「科目名の正しさ」の問題ではないということです。運用の設計の問題です。だから、簿記のテキストを読み直しても解決しません。
手順①:直近1年から「迷った支出」だけを抜き出す
最初にやるのは、科目一覧を作ることではありません。逆です。直近12か月の総勘定元帳を開いて、雑費・消耗品費・支払手数料・その他の科目に入っている明細を全部出す。この4つに、迷った支出が集まります。
抜き出したら、金額の大きい順ではなく件数の多い順に並べてください。決め方を作るべき対象は、金額が大きい支出ではなく、毎月何度も出てくる支出です。年1回の大きな支出は、その都度考えれば足ります。毎月20件出てくる支出のほうが、判断のぶれを生みます。
この作業は、慣れていれば半日で終わります。多くの会社で、件数の上位10〜15種類が全体の迷いの8割以上を占めます。決めるべきはその10〜15種類だけです。全科目の定義書を作ろうとすると終わらないので、そこは狙わないでください。
手順②:判断基準は「品目」ではなく「目的」で書く
ここが一番の山です。決め方を書くときに、品目で書くと必ず破綻します。
たとえば「お茶・コーヒー代は会議費」と書いたとします。すると、来客用のコーヒーも、社員が自席で飲むコーヒーも、同じ行き先になります。実態は違うのに、書いてある通りに入力すると混ざる。品目は同じでも、目的が違えば科目は変わります。
私が現場で使っているのは、次の形の書き方です。
| 書き方 | 例 | 結果 |
|---|---|---|
| 品目で書く(うまくいかない) | 「飲食代は会議費」 | 社内の懇親も取引先との会食も同じ科目に入る |
| 目的+相手で書く(うまくいく) | 「社外の人が同席した飲食は接待交際費/社内だけの打合せに伴う飲食は会議費/社内の懇親は福利厚生費として扱えるか個別に確認」 | 領収書の但し書きと参加者を見れば、誰でも同じ答えになる |
基準を書くときのチェックは1つだけです。その文章を読んだ入社1か月の人が、領収書を見て同じ科目に行き着けるか。行き着けないなら、まだ書き方が足りません。「常識的に判断する」「内容に応じて」という言葉が入っていたら、そこは決まっていないと思ってください。
迷いやすい支出の切り分け方
実際に相談の多いものを挙げます。ここに書くのは考え方の整理であって、金額基準や損金の扱いは会社の状況と最新の税制で変わるため、最終的な当てはめは顧問税理士に確認してください。
| 支出 | 分ける軸 | 実務上のつまずき |
|---|---|---|
| 備品の購入 | 取得価額と使用可能期間で、費用にするか資産計上するかが変わる | 金額の判定は税務上の基準が絡むため、ここは自己判断せず先に確認しておく |
| ソフトウェアの利用料 | 買い切りか、月額のサービス利用か | 月額のクラウド利用料を通信費に入れる会社と支払手数料に入れる会社があり、社内で割れやすい |
| 外部への支払 | 役務の内容(業務委託か、専門家報酬か、広告か) | 源泉徴収の要否と結びつくため、科目より先に契約内容を見る |
| 交通費 | 移動そのものか、宿泊・日当を含む出張か | 出張規程がないと、同じ出張が月ごとに違う形で処理される |
| 会費・年会費 | 同業団体か、任意の団体か、個人の資格か | 個人の資格に関わるものは扱いが分かれるため、まとめて諸会費に入れない |
手順③:科目は増やさない。分けたいなら補助科目で
「広告費の内訳を見たい」という要望が出ると、多くの会社が科目を増やします。広告宣伝費のほかに「Web広告費」「販促費」「印刷費」を作る、といった形です。これは短期的には見やすくなりますが、2年後に必ず選べなくなります。
科目を増やすと何が起きるか。入力時の選択肢が増え、判断の分岐が増え、人が変わったときに引き継げなくなります。そして一度作った科目は、前期比較の都合でなかなか消せません。
内訳を見たいだけなら、科目は1つに保ったまま、補助科目やタグ(部門・プロジェクト)で分けるのが定石です。会計ソフトはたいてい補助科目の機能を持っていますし、集計の柔軟性は補助科目のほうが上です。判断としてはこうなります。
- 科目を分ける:性質が違うとき(費用の中身そのものが別物)。例=地代家賃と水道光熱費
- 補助科目で分ける:性質は同じで、内訳を見たいとき。例=広告宣伝費の中の媒体別
- 部門・タグで分ける:どの事業・拠点の費用かを見たいとき。科目とは別軸で持つ
この3つを混ぜて科目1本で表現しようとすると、科目数が掛け算で増えます。「Web広告費(東京)」のような科目を見かけたら、設計が崩れているサインです。
決めたら、一覧表ではなく1枚のメモにする
全科目の定義書を作った会社を何社も見てきましたが、使われているのを見たことがほとんどありません。分厚いからです。開くより聞いたほうが早い、という状態になります。
私がお勧めしているのは、迷いやすい10〜15種類だけを、A4で1枚に書く形です。中身はこの3つで足ります。
- 支出の内容(どういう場面で発生するか、を1行で)
- 科目と補助科目
- 判断がぶれたときにどうするか(誰に聞くか、聞くまでどこに置くか)
3つ目を書いていない会社が多いのですが、ここが実務では効きます。判断がつかない支出が出たときに、その場で適当な科目に入れられてしまうのが一番困る。「分からないものは仮払金に置いて、月末にまとめて相談する」のように、迷ったときの逃げ道を先に決めておくと、勝手な判断が減ります。
1枚に収める作り方は経理マニュアルの作り方と同じ考え方です。手順を全部書くのではなく、判断が分かれる場所だけを書く。工程のつなぎ目に何を置くかは経理業務フローの作り方にも整理しました。
途中で変えるときの作法
「今のルールが間違っているので変えたい」という相談もよくあります。変えること自体は問題ありませんが、順番と時期があります。
| やること | 理由 |
|---|---|
| 変更は期首から入れる | 期の途中で変えると、その期の月次比較が前半と後半で切れる。年度をまたぐ比較も説明が要る |
| 過去分を遡って直すかを先に決める | 遡らないなら、前期比較を見るときに「ここで定義が変わっている」と分かる注記を残す |
| 変更した理由を1行残す | 数年後に「なぜこの科目にしたのか」を誰も説明できなくなるのを防ぐ |
| 顧問税理士に事前に伝える | 決算書の表示や申告書の付表に影響することがある。事後報告だと手戻りになる |
変更の記録は、担当者が交代したときに効いてきます。引継ぎで一番揉めるのは手順ではなく、「なぜこうしているのか」が分からない処理です。この点は経理の引継ぎに詳しく書きました。
会計ソフトの自動仕訳をどう扱うか
クラウド会計を使っていると、銀行やカードの明細から科目が自動で提案されます。これは便利ですが、提案された科目をそのまま通すと、自社のルールと少しずつずれていきます。学習の元になっているのは自社の設計ではないからです。
現実的な運用は、取引先ごとに自動仕訳のルールを自社側で固定してしまうことです。「この取引先からの引落は必ずこの科目・この補助科目」と登録しておけば、提案に左右されません。毎月出てくる固定的な支払は、この方法でほぼ判断が要らなくなります。
逆に、都度発生する支出は自動化しないほうが早いことが多いです。ルールを作る手間のほうが大きくなります。どこまで自動化するかの線引きは記帳代行の中でも毎回議論になる論点です。
シメゴの考え方
私たちが記帳をお預かりするとき、最初の1か月でやるのはこの作業です。過去の元帳から迷いの集まっている場所を抜き出し、判断基準を書いて、お客様に確認していただく。ここを飛ばして代行を始めると、私たちが新しい判断のぶれを持ち込むことになります。
正直に書くと、この整理は外注しなくてもできます。元帳を1年分眺めて、件数の多い支出を10種類書き出すだけです。社内でやれば、外注費をかけずに月次のぶれは止まります。実際、それで十分だった会社もあります。
私たちが引き受けているのは、その整理を毎月継続して回すところです。決めた基準どおりに記帳し、迷った支出は勝手に判断せず一覧にして返す。判断そのものはお客様と顧問税理士に残す、という線引きにしています。科目の判断は最終的に決算と申告につながるので、そこを外部が独断で決める形にはしません。
まとめ
勘定科目の決め方は、正解を探す作業ではなく自社で迷わない状態を作る作業です。同じ支出が毎回同じ科目に入るなら、その科目が消耗品費でも事務用品費でも実務は回ります。
手順は3つ。①直近12か月の雑費・消耗品費・支払手数料・その他から明細を出し、件数の多い順に並べる。②上位10〜15種類について、品目ではなく目的と相手で判断基準を書く。③内訳を見たいだけなら科目を増やさず、補助科目とタグで分ける。
そして決めたものは、分厚い定義書ではなくA4で1枚に。迷ったときにどうするかまで書いてあれば、勝手な判断は減ります。変更するときは期首から入れて、理由を1行残す。これだけで、数年後の引継ぎがかなり楽になります。
元帳を1年分お預かりできれば、迷いが集まっている場所はその日のうちに一覧になります。無料コスト診断で現状の科目の使われ方を拝見し、どこを決めれば月次のぶれが止まるかを整理してお返しします。外注するかどうかは、それを見てから判断してください。
※本記事は一般的な実務の整理であり、特定の勘定科目の選択が税務上適正であることを保証するものではありません。資産計上の要否、損金算入の可否、源泉徴収の要否を含め、決算・申告に関する最終的な判断は顧問税理士にご相談ください。